Ti amo da impazzire! 後編
匍匐の姿勢で尻だけをつきだすように指示された一歩は、ぐったりとした四肢に力を振り絞ってうつ伏せになった。そのまま言われたとおりにぐぐっと重たい腰をもちあげる。
普段の一歩であるなら先ず求められても抵抗する体勢である。しかし今の一歩には、犬のような姿勢に対する羞恥などとうに失せていた。ぼんやりとした意識の中で、熱にうかされたままの一歩は言われるままに鷹村に従った。
従順さの理由は、愛欲による躾が大きい。
鷹村の手によって散々あばかれている一歩の身体は、すでに行為の先を望みはじめている。腿の内側が、強烈な快感を待ちわびてゆるく痙攣した。長いあいだ焦らされているせいか、腰を支えている膝がかすかにふるえている。
時折かくんとぬけ落ちるので、鷹村は一歩の白い臀部を平手で打ち付けた。乾いた音が一歩の浅い呼吸をひきつらせた。しんとした部屋の暗がりにかすかな鼻息がのみ込まれていく。
「ケツが下がってきてンぞ。しっかり支えとけよ」
自らの前膊に顔をうずめている一歩が、はああっと悩ましい吐息をもらした。小刻みにふるえた左手が、下敷きにしているダッフルコートを握り締める。身体に酸素を行きわたらせるように深く息を吸って、歯を食いしばる。引き結んだ唇からちいさな喘ぎがこぼれた。んん、という意味をなさない呟きが鷹村の鼓膜を振動させる。
鷹村の前でやわい肉がゆらりと動いた。発情期のメスが雄の前で見せるような仕草に、思わず舌なめずりをする。舌先に、乾いてひび割れた唇からにじんだ血液がからみついた。
むせるほどではない鉄錆びた臭いに、鷹村の興奮も煽られた。
性行為において嗜虐的な傾向の強い鷹村は、基本的に時間をかけて相手をいたぶることが多かった。その容貌と性格からは荒々しくことにおよびそうな印象を受けるが、実のところ彼は視覚でセックスを楽しむたぐいである。そしてそのサディスティックな一面には、ややもすれば老猾なまでの執拗さがあった。
「あ、あっ…ァんッ」
「あんまでけェ声あげっと聞こえちまうぜ?」
外に、と鷹村が続けた。低い囁きに一歩の肌があわだった。ぶるりと身体をふるえさせた一歩に気を良くした鷹村がほどよく締まっている臀部に唇をおとす。二度三度と弾力を確かめたあと、そのまま大きく口をひらいて噛り付いた。
「いあ、ア、あァッ! い、痛っ…やぁーッ」
ぎりぎりと犬歯を喰い込ませ、肉を引き千切ろうとする鷹村に一歩が叫びをあげる。ろくに動かない腕をふりまわして這いずるが、口をはなした鷹村に引き摺られて元の位置に戻される。
「人がきちまったらどーすんだお前」
先ほど部屋に入ってきた一歩は、その異質な雰囲気に気圧されて施錠を忘れてしまっていた。ただでさえ薄い壁をしている太田荘だ。一歩の嬌声を悲鳴と間違えた隣人が訪ねてきたとしても不思議ではない。
扉に鍵をかけていないということを知っていて、鷹村は容赦なく一歩を責めたてた。
いやらしい警告に反応した一歩が緩慢な動作で自分の口元を覆った。指のあいだから荒い息がもれる。呼吸を整えて声を抑えようとするいじらしい姿に、鷹村は喉をふるわせて笑った。
「んんッ! ひ、ぃあ…あ、ぅん…アぁあ!」
一歩の腹の中をさぐっている中指と環指を遠慮なく奥へと突き入れると、一際高い嬌声があがる。ぐいぐいと内壁をかきわける鷹村の指のはらは、一歩の一番いいところだけを避けていった。
鷹村によってオンナにつくりかえられた一歩の身体では、もどかしいだけの刺激は決定的な快楽の予感をもたらすばかりでいっこうに性を解放してはくれない。
嬲られるたびに、気がふれそうになる。
か細い悲鳴が押し殺されるのを、鷹村は見ているだけだった。我慢できずにゆらゆらと一歩の腰がゆらめいた。淫蕩な動作が、発達した背筋のラインをたどってうなじのあたりにたまっていた汗を滴らせた。
「言いてえこと、あンだろ? 言ってみろよ」
上体を持ち上げて一歩の背に覆いかぶさった鷹村が、彼の耳朶を食んで名前を呼んだ。「なあ、一歩ォ」という呼びかけに、一歩が大げさに肩をびくつかせる。欲情した鷹村の吐息に一歩の声が裏返る。緩急をつけて指を出し入れされるたびに、押し殺し損ねた悲鳴がこぼれおちた。
上着をはぎとられた一歩が身にまとっているのは、左足にからまった下着とデニムぐらいのものだ。鷹村が一歩を苛むたびに板張りの通路と衣が擦れて、肌があわだつような音を立てている。ときおり金属音がまじるのは、剥きだしのバックルのせいだった。
あますことなく外気にさらされている一歩とは対照的に、鷹村に衣服の乱れはない。
「ァん…!」
鷹村の指がするっと引き抜かれた。それまで受け入れていた襞が収縮し、切な気な喘ぎが一歩の濡れた唇からこぼれ出る。
ぐっと腰をつかんだ鷹村が、一歩を仰向けにさせた。強引にひっくり返された下半身に、奄奄とした上半身が少し遅れてついてくる。両腕をなげだした一歩の胸が上下した。
涙で汚れた顔を隠しもせずに、一歩は鷹村を見た。焦点のぶれている瞳には、はっきりとした淫欲が見てとれる。一歩の脚を身体で割りさく鷹村に、一歩は自ら擦り寄っていった。積極的に足をからめる姿は、娼婦さながら、淫靡な雰囲気を醸しだしていた。
薄い唇がひらく。
「た、たか…さ、…して、欲し」
舌が痺れて鷹村の名前すらまともに呼べなくなった一歩が、懇願の眼差しを向けた。目じりにたまった涙が瞬きのたびにはらはらと散る。
鷹村が右目を眇める。
「それじゃわかんねーだろうが。オレ様にどうして欲しいのか、言ってみろっつってんだよ」
一歩の両目が一瞬泳いだ。わずかな躊躇いにすかさず鷹村が「今さらかまととブってんじゃねえよ」と唇の端をひきあげた。攻撃的な笑みにとがった八重歯がのぞく。一歩の産毛が逆立った。
無意識で鷹村を誘う足が、艶かしくからむ。
はあっとあついため息がこぼれた。熱に熟れた一歩が耐え切れずに願いでる。
「ぉねが…、たかむらさ…いて」
「聞こえねえなァ。はっきり言えよ一歩ォ、どうして欲しいんだ…?」
ん? とうながしながら、鷹村が一歩の脇腹につうっとてのひらをすべらせた。途端にはねる一歩の反応は、いずれも鷹村自身が一歩の身体に教え込んだものだった。
他の男の影がないことに、鷹村がほくそ笑んだ。
「抱いて、ほし…」
言葉の途中で一歩が眉間に皺をよせた。鷹村の左手が無防備な一歩自身をつかみあげたからだった。
すでにしめっている先端をこねるようにして鷹村が性器を弄ぶ。はりつめて芯をもったそれをぎゅっと握りしめると、一歩は鼻からぬけるような甘い声をあげた。期待感に膝のふるえが大きくなる。痙攣する腿をさすりあげて、鷹村がすうっと双眸を細めた。
「…その前に言わなきゃなンねーことがあったよなあ?」
鷹村の武骨な指が、勃起した陰茎を上下に扱く。ゆるゆるとした刺激に焦らされて一歩がうめき声をあげた。いやいやをするように頭をふるせいで後頭部を床に打ち付けるはめになる。コートのすぐ下は木製の床であるため、がつんとした衝撃に一歩の目の前がちかちかとした。
しかしそれを脳が痛みとして拾い上げるよりも素早く、官能がつま先からかけあがる。
「ひっ…ぃあ…」
「ヒィヒィないてちゃよお。わかんねーだろうが」
痛みを伴うほど張りつめている性器を鷹村がぐっと握りこむ。根元からおさえられた一歩が、か細い抗議をあげて鷹村の甲に爪をたてた。しっかり切りそろえられた一歩の爪が鷹村の皮膚をうすく削り取る。肌がひきつれるぴりっとした痛みに鷹村の眼がぎらついた。
「あんまり梃子摺らせンなよ…。イかせてやらねえぜ?」
鷹村の唸り声に一歩の瞳に脅えが走った。
手が退いたのをいいことに、鷹村は肉付きの豊かな尻へと右手をすべらせる。水あげされた魚のようにはねあがる若い肢体を男性器をきつく握ることで黙らせて、猥らにひくつく孔に指をのばした。ワセリンを塗りこんで滑りをよくした入り口は、すんなりと鷹村の指を受け入れる。
奥深くで肉と肉とが掻き分けられてぐちりと音を立てた。一歩を抉じあける指がふえ、圧迫感が増していく。一歩は苦し紛れに両足の指をきゅっとまるめた。
「ぃ…あ。はあっ…うぅ」
男に馴らされた身体は犯される事を学んだのか、内側を傷つけないように腸液を分泌させている。まるで女のように、とはいかないまでも一歩のそこは充分に濡れそぼっていた。
鷹村が指を引き抜く瞬間に、切ないため息がこぼれでた。何度も噛みしめたのか、一歩の下唇は真っ赤に染まっていた。
陽物をしめあげる左手はそのままに、鷹村は自身のデニムのボタンを手早く外してジッパーをさげた。ジジジ、とかみ合わさった金属の歯が離れて前がくつろげられる。
待ちわびた音をひろった一歩が息をのんだ。鷹村をうかがうように、そうっと呼吸がくりかえされる。
「なあ、おあずけされンのは嫌なんだろ?」
一歩の腰を持ち上げて、自分の腿の上に開いた足をのせる。軽く尻をあげさせて、鷹村は一歩に言葉を促した。一歩のためらいがちな視線が鷹村の目から口元へとすべっていき、最後に手元を見やった。物欲しい顔つきをして一歩が顔を背けた。
視軸だけがうかがうように鷹村の胸元にあわされている。
「…やめちまってもいいのか?」
オラァ構わねえけどよと薄笑いをうかべながら、鷹村はジーンズのフロントポケットに指を忍ばせた。なだらかなアーチを描くそこからするりと取り出されたのは、避妊具だった。
黒いパッケージの平たい部分を犬歯にかませてびいっと包装を破る。素早く右手だけでコンドームを取り出して、鷹村が口を開いた。
「てめえがナンも言わねえならこいつも無駄になるな」
ふざけた物言いで鷹村が言い切った。冗談ではすまさない男であるのを、一歩はその身をもって理解している。
「ご、ごめんなさ…」
すぎる快感にしゃくりあげる一歩が絶え絶えの息の合間に口にする。泣きのはいった一歩にも容赦しない鷹村は、何に対して謝っているのかを一歩にたずねた。その間にも、鷹村の左手は一歩を苛むのをやめなかった。
一歩の喉がひゅうっとなった。ぎゅうっと目をつむって耐えるようなまねをする。
「はっ…ん、…で、電話! れん、らく…しなくてごめんなさ…」
「それだけか」
鷹村は淡々とした言葉で一歩に続きを促した。片手でゆっくりと自分のものにゴムをかぶせていく。器用というよりは手馴れている、その雄っぽい仕草に一歩がたまらず「鷹村さぁん」と甘えた強請り声で呼びとめた。
鷹村は目線だけで一歩を黙らせた。
「わかんねーんならヤめるぜ。いいんだな」
「っ…あ…! じ、じか…すぎて。じゅ、に…時ッ! す、ぎてごめんな、さぃ…」
伊達のところで長居をしたことを泣きじゃくりながら必死に謝る一歩に、鷹村の右手がのびた。自分の顔へとのばされたそれに一瞬一歩が首をすくめる。鷹村は脅えた様子にも構わずに一歩の髪に指先をうずめた。
一歩がそろりと目をあけて鷹村を見やる。先ほどよりもぐっと欲情の色をつよめた鷹村が一歩の唇に噛み付いた。呼吸ごと奪い去るような口付けに一歩の舌が逃げ惑う。息苦しさに、一歩が鷹村の胸を叩いた。
抱きつぶすように体重をかけて一歩の自由を奪った鷹村は、ひとしきり口腔をなめあげた。がちがちと歯がぶつかることも気にせずに、角度を変えて一歩の歯列を確かめていく。
縮こまった舌を乱暴にからめとり、軽く吸って歯をたてたあとゆっくりと顔をはなした。
一歩が息を整える前に、鷹村は持ち上げた足をぐっと肩の上へ担いだ。鷹村がそのまま一歩に体重をのせるので、一歩の膝が彼自身の胸に押し付けられそうになる。ふたつに折り曲げられた身体が軋んだ音をたてた。苦しい体勢に一歩が舌を出して息をした。
一歩のくぼみに鷹村の先端があてがわれる。
ことさらゆっくりと埋め込まれる熱を、一歩はだらしなく口をあけて受け入れた。ひっきりなしにこぼれる嬌声が鷹村の征服欲を満たす。
壁が薄いことも、施錠をされていない部屋であるということもすっかり頭から出て行ってしまっているだろう一歩の余裕のなさに、鷹村は唇の端をつりあげた。
短い髪を振り乱してよがる一歩に腰を打ち付ける。
「いっつもこんぐれェ可愛気がありゃあイイんだけど、よっ」
一歩を戒めていた左手をはなして、鷹村は一歩の背中に腕をまわした。
痛みと圧迫感と、それを上回る気持ち良さに耐えかねて、一歩が眉間に皺をよせる。鷹村がはーっと一息入れるとあつい胸板に押しつぶされるせいか、密着した一歩が身じろいだ。
互いの肉がぶつかり合う度に、一歩がかすれてきた声を張り上げる。一歩が仰け反るように顎をあげて性感にふるえる。鷹村は、目の前の差し出された無防備な喉笛に唇をよせた。噛み付こうと思ってひらいた口を閉じ、火照った身体に舌を這わせてきつく吸い付く。
一歩からは荒い呼吸の間にひいっという嬌声があがるばかりだった。
「…あんま心配かけさすんじゃねえよ、タコ」
理性と正気とが擦り切れて浅ましく本能を曝け出す一歩に、鷹村はちいさな本音をこぼした。一歩の腕が鷹村の背にまわされる。
激しく揺さぶられている一歩は待ち焦がれた鷹村の温度に、睫にまで涙をふくませて喜びに咽びないた。